
果たして、この株に投資していいものか?など、投資には悩みがつきものです。
そんな時、確率の概念を用いることで、
- どれくらいの確率で
- どれくらいの利益を期待できるか?
を仮定の範囲で整理することができます。
この記事では
- 期待収益率とは?
- 分散・標準偏差とは?
- ポートフォリオの期待収益率と分散と標準偏差とは?
- ポートフォリオ年平均の期待収益率とは?
について、例題を用いながらこれらの概念をお伝えします。
※当ブログは投資を勧めるものではなく、あくまで一般的な事項を説明をするためのものです。
期待収益率とは?

期待収益率とは、「ある資産の運用により、獲得が期待できる収益の平均値」を意味します。
期待収益率がマイナスになる場合は、投資をしても損をしやすくなります。
一方で、期待収益率がプラスであれば、投資による利益の獲得が期待できます。
つまり、投資をするか検討する際の一つの指標として、期待収益率は活用されるのです。
投資する資産ごとに、期待収益率は異なります。
最初からリターンが固定されている「預金」や「国債」等の安全資産の運用と比べると、値動きのある株式や外貨への投資は不確実性が高いので、その不確実性も加味した評価をすることに期待収益率を使うことができます。
期待収益率を算出するには、予想されるシナリオとそのシナリオが発生率(正規確率といいます)を決めて、それぞれの予想投資収益率を加重平均します。
数式で表すと以下の通りです。
期待収益率(%)=予想投資収益率×確率 の合計
ここで、投資収益率とは、株式の投資効果を計る指標のひとつで、株式の投資額に対して、どのくらいの利益があったかを年率で表したものです。
なお、投資収益率は「総合利回り」ともいいます
投資収益率を数式で表すと以下です。
投資収益率(%)=投資収益 / 投資額×100
期待収益率の計算例①
例えば、証券Aの株式は、景気の変動により下記の通り株価や配当が変動すると仮定します。
表 証券Aの景気の変動における株価や配当
経済状態 | 生起確率 | 期末のA株価 | 期末配当 |
好景気 | 20% | 1055円 | 45円 |
平常時 | 60% | 1040円 | 40円 |
不景気 | 20% | 970円 | 0円 |
現時点の証券Aの株価が1000円の時、このような予測値から証券Aの期待収益率を求めます。
- 期待収益率 = 好景気の期待収益率 × 0.2 + 平常時の期待収益 × 0.6 + 率不景気の期末収益率 × 0.6
- 好景気の期待収益率:(1055-1000+45)/1000 × 100 = 10%
- 平常時の期待収益率:(1040-1000+40)/1000 × 100 = 8%
- 不景気の期末収益率:(970-1000+0)/1000 × 100 = -3%
- 期待収益率=10% × 0.2 + 8% × 0.6 - 3% × 0.6 = 2% + 4.8% - 0.6% = 6.2%
以上から、証券Aの期待収益率は6.2%と求めることができます。
分散と標準偏差

期待収益率の計算によって、平均してどれくらいの利益がでそうかがわかるようになります。
しかし、それがどれくらいのブレ幅があるのが気になると思います。
そこで、期待収益率に対するバラツキの大きさを数値化することで、このようなブレ幅(リスク)を計算することができます。
期待値からの散らばりの程度を測る尺度として、統計学の分散や標準偏差が用いられます。
分散とは、実現性のある各収益率から期待収益率を差し引き、その差を2乗した値に生起確率を乗じ、それらをすべて合計した値のことです。
分散の数式は以下の通り。
分散=((ある状態における収益率ー期待収益率)2 × 確率)の合計
期待値から離れた値をとるデータが多ければ多いほど、分散が大きくなります。
期待値からの距離の2乗することにより、基準を正負によらない値としてすることができます。
一方、標準偏差とは、分散の平方根(2乗した数値をもとに戻した数値)のことです。
標準偏差の数式は以下の通り。
標準偏差=√分散
分散は求める過程で、期待値からの距離が2乗されているので、元の単位と結果の単位が異なってしまい、分かりにくい指標となってしまいます。そこで、分散の平方根にとることによって、元の単位を揃えています。
分散と同様に標準偏差が小さいほどリスクが小さく、大きいほどリスクが大きくなります。
分散と標準偏差の計算例②
表 証券Aの景気の変動における株価や配当
経済状態 | 起きる確率 | 期末のA株価 | 期末配当 |
好景気 | 20% | 1055円 | 45円 |
平常時 | 60% | 1040円 | 40円 |
不景気 | 20% | 970円 | 0円 |
さきほどの計算例でも用いた、景気の変動により株価や配当が変動する証券Aにおける分散と標準偏差を求めてみます。
(分散)
分散は、実現性のある各収益率から期待収益率を差し引き、その差を2乗した値に生起確率を乗じ、それらをすべて合計した値のことです。
したがって、分散は、好景気の分散 、平常時の分散、不景気の分散を合計したものになります。
それぞれの分散は(各景気における収益率ー期待収益率)2 × 確率)で求められます。
- 好景気の分散:(10%-6.2%)2 ×0.2=2.88
- 平常時の分散:(8%-6.2%)2 ×0.6=1.944
- 不景気の分散:(-3%-6.2%)2 ×0.2=16.928
分散=好景気の分散 + 平常時の分散 + 不景気であることから
- 分散=2.88 + 1.944 + 16.928=21.752
(標準偏差)
標準偏差は下式で求められます
- 標準偏差=√分散
- 標準偏差=√21.752≒4.667%
以上より、証券Aにおける分散は21.752、標準偏差は4.7%と求めることができます。
証券Aの期待収益率と標準偏差の整理することで得られるメリット

この標準偏差をもとに正規分布時を描くと、期待収益率(μ)と標準偏差(σ)の関係は図のようになります。
正規分布と、は英語で Normal distribution と言うことからも分かるように『世の中でもっとも一般的な分布』です。
さまざまな社会現象や自然現象に当てはまることが良くしられています。
証券Aの分布が、正規分布であった場合、証券Aの収益は
- 68.26%(約3分の2)の確率でμ±σの範囲の収益
- 95.45%の確率でμ±2σの範囲の収益
となることを表しています。
- 期待収益率:6.2%
- 標準偏差:4.7%
であることから、証券Aは
- 68.26%(約3分の2)の確率で6.2%±4.7%の収益
- 95.45%の確率で6.2%±9.4%の収益
と、整理されることになります。
ここまで細かく整理することができれば、かなり証券Aへの投資判断がしやすくなるでしょう。
ポートフォリオ

「ポートフォリオ」とは、ここでは金融商品の組み合わせのことをいいます。
複数の金融資産を組み合わせて保有する際、どのような割合で保有するのが良いのか、迷うことがあると思います。
その時も、期待収益率と分散、標準偏差を用いて、リターンとリスク評価することは有用です。
ポートフォリオの期待収益率は、個々の期待収益率を、ポートフォリオの構成比で加重平均したものに等しくなります。
例えば証券Xと証券Yのポートフォリオを組む時の期待収益率の数式は以下の通りです。
ポートフォリオの期待収益率=(証券Xの予想投資収益率×証券Xの構成比)+(証券Yの予想投資収益率×証券Yの構成比)
「ポートフォリオ」とは、ここでは金融商品の組み合わせのことをいいます。
複数の金融資産を組み合わせて保有する際、どのような割合で保有するのが良いのか、迷うことがあると思います。
その時も、期待収益率と分散、標準偏差を用いて、リターンとリスク評価することは有用です。
ポートフォリオの期待収益率は、個々の期待収益率を、ポートフォリオの構成比で加重平均したものに等しくなります。
例えば証券Xと証券Yのポートフォリオを組む時の期待収益率の数式は以下の通りです。
ポートフォリオの期待収益率=(証券Xの予想投資収益率×証券Xの構成比)+(証券Yの予想投資収益率×証券Yの構成比)
ポートフォリオの期待収益率と分散と標準偏差の計算例③
次表のように予想投資収益率が変動する証券Xと証券Yを7:3で組み合わせたポートフォリオXYの
- 期待収益率
- 分散
- 標準偏差
を計算してみます。
経済状態 | 生起確率 | 予想投資収益率 | |
証券X | 証券Y | ||
好景気 | 30% | 50% | 10% |
平常時 | 50% | 10% | 20% |
不景気 | 20% | ▲20% | ▲5% |
(期待収益率の計算)
まずはそれぞれの経済状態におけるい期待収益率を算出します。
それを生起確率で加重平均します。
ここで、ポートフォリオの期待収益率は下式で求められます。
- ポートフォリオの期待収益率=(証券Xの予想投資収益率×証券Xの構成比)+(証券Yの予想投資収益率×証券Yの構成比)
であることから、
- 好景気のポートフォリオ期待収益率:0.7×50%+0.3×10%= (35+3)%=38%
- 平常時のポートフォリオ期待収益率:0.7×10%+0.3×20%= (7+6)%=13%
- 不景気のポートフォリオ期末収益率:0.7×▲20%+0.3×▲5%= (-14%+-1.5%)=▲15.5%
この結果を生起確率で加重平均します。
- 期待収益率 = 好景気の期待収益率 × 0.3 + 平常時の期待収益 × 0.5 + 率不景気の期末収益率 × 0.2
- 期待収益率=38% × 0.3 + 13% × 0.5 - 15.5% × 0.2 = 11.4% + 6.5% - 3.1% = 14.8%
(分散)
分散は下式で求められます。
- 分散=(ある状態における収益率ー期待収益率)2 × 確率 の合計
したがって、それぞれの経済状態における「(ある状態における収益率ー期待収益率)2 × 確率」を算出し、合計します。
- 好景気:(38%-14.8%)2 ×0.3=23.2×23.2×0.3=161.472
- 平常時:(13%-14.8%)2 ×0.5=-1.8×-1.8 ×0.5=1.62
- 不景気:(▲15.5%-14.8%)2 ×0.2=-30.3×-30.3 ×0.2=183.618
- 分散=好景気の分散 + 平常時の分散 + 不景気の分散
- 分散=161.472+1.62+183.618=346.71
(標準偏差)
標準偏差は下式で求められます。
- 標準偏差=√分散
- 標準偏差=√346.71≒18.6%
以上から、ポートフォリオXYの期待収益率は14.8%、分散は346.71、標準偏差は18.6%と求めることができます。
なお、ポートフォリオXYの収益率の分布が対数生起分布であると仮定すると、
と、整理されることになります。
ポートフォリオの年平均投資収益率と標準偏差と分散
ここまでは単年における期待収益率と分布、標準偏差で評価をしてきました。
ポートフォリオのパフォーマンス評価のひとつとして、ポートフォリオの年平均の投資収益率(リターン)と、ポートフォリオの標準偏差があります。
投資を複数年継続する場合、毎年の損益を繰り越さず、投資額をリセットする単利計算とするか、毎年の損益を繰り越して複利計算として評価をするのかで、投資収益率の計算の仕方が変わります。
年平均投資収益率(単利)=各年の投資収益率の和/投資期間(年)
年平均投資収益率(複利)=期間 √(末期価値/初期価値-1)×100
年平均投資収益率(単利)の例題④
表の投資収益率から、年1回の単利計算により通期の平均投資収益率および標準偏差を求めます。
過去4年のポートフォリオの投資収益率
第1期 | 第2期 | 第3期 | 第4期 | |
投資収益率 | ▲10% | 20% | 15% | ▲5% |
(平均投資収益率)
- 年平均投資収益率(単利)=各年の投資収益率の和/投資期間(年)
- 年平均投資収益率(単利)=(-10%+20%+15%-5%)/4年⁼20%/4年⁼5%/年
(分散)
- 分散=((ある状態における収益率ー期待収益率)2 × 確率)の合計
- 第1期の分散:(-10%-5%)2 ×1/4=(-15%)2 ×1/4=225/4=56.25
- 第2期の分散:(20%-5%)2 ×1/4=(15%)2 ×1/4=225/4=56.25
- 第3期の分散:(15%-5%)2 ×1/4=(10%)2 ×1/4=100/4=25
- 第4期の分散:(-5%-5%)2 ×1/4=(-10%)2 ×1/4=100/4=25
- 分散=第1期の分散+第2期の分散+第3期の分散+第4期の分散
- 分散=56.25+56.25+25+25⁼162.5
(標準偏差)
- 標準偏差=√分散
- 標準偏差=√162.5≒12.747 5%
以上から、ポートフォリオの年平均期待収益率は5%/年、分散は162.5、標準偏差は12.75% と求めることができます。
なお、ポートフォリオの収益率の分布が対数生起分布であると仮定すると、
と、整理されることになります。
年平均投資収益率(複利)の例題④
表の投資収益率から、年1回の複利計算により通期の平均投資収益率および標準偏差を求めます。
過去4年のポートフォリオの投資収益率
第1期 | 第2期 | 第3期 | 第4期 | |
投資収益率 | ▲10% | 20% | 15% | ▲5% |
(平均投資収益率)
- 年平均投資収益率(複利)=期間 √(末期価値/初期価値-1)×100
- 年平均投資収益率(複利)=(4√(1×0.9×1.2×1.15×0.95 )- 1)×100 =(4√(1.1799)-1)×100≒4.22%
(分散)
- 分散=((ある状態における収益率ー期待収益率)2 × 確率)の合計
- 第1期の分散:(-10%-4.22%)2 ×1/4=(-14.22%)2 ×1/4=225/4=50.5521
- 第2期の分散:(20%-4.22%)2 ×1/4=(15.78%)2 ×1/4=225/4=62.2521
- 第3期の分散:(15%-4.22%)2 ×1/4=(10.78%)2 ×1/4=100/4=29.0521
- 第4期の分散:(-5%-4.22%)2 ×1/4=(-9.22%)2 ×1/4=100/4=21.2521
- 分散=第1期の分散+第2期の分散+第3期の分散+第4期の分散
- 分散=50.5521+62.2521+29.0521+21.2521⁼163.108
(標準偏差)
- 標準偏差=√分散
- 標準偏差=√163.108≒12.771 %
以上から、ポートフォリオの年平均期待収益率は4.22%/年、分散は163.108、標準偏差は12.77 % と求めることができます。
なお、ポートフォリオの収益率の分布が対数生起分布であると仮定すると、
と、整理されることになります。
まとめ
この記事では
等について、例題を用いながらこれらの概念をお伝えしました。
果たして、この株に投資していいものか?など、投資には悩みがつきものです。
そんな時、この記事を思い出して見返して頂ければよいかと思います。