
今回は、株式投資によく使われる以下の指標について整理いたしました。
- ROE
- ROA
- サステイナブル成長率
- イールド・スプレッド
- EV/EBITDA倍率
- その他財務指標
なるべく分かり易く記載しているつもりですが、これらは、ある程度の会計知識が前提となります。
※ このブログは財務指標について説明するためのものであり、投資を勧めるためのものではございません。投資は必ず自己責任でお願いいたします。
ROE(自己資本利益率)とは?
ROE(Return on Equity:自己資本利益率)
ROEを算出する数式は以下の通りです。
ROE(%)=(当期純利益/自己資本)×100
ここで、自己資本とは、株式資本+その他の包括利益累計額(新株予約権や非支配株主持分を除く)のことです。
ROEの意味は、自己資本(設備など)で、どれだけ利益を稼いだかを示す数値です。
なお、有価証券報告書では、期末自己資本のみを用いて「自己資本利益率」として、決算短信では、期首と期末の平均自己資本を用いて「自己資本当期純利益」として、それぞれ用いられます。
ROEを上げるために、どういった対策をとるべきかを分析します。
ROEの定義は以下です。
ROE(%)=(当期純利益/自己資本)×100
ROEの式を書き換えると下記のように表されます。
ROE=(当期純利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/自己資本)
ここで、
- (当期純利益/売上高)は売上高純利益率と呼ばれ、売上高に占める利益の比率のこと。
- (売上高/総資産)は総資本回転率と呼ばれ、総資本をどれだけ有効活用したかの指標。
- (総資産/自己資本)は財務レバレッジと呼ばれ、リスクをとってどれだけ利益をあげたか。
つまり、この3つの指標を高めることができれば、ROEが高まることになります。
また、
ROE=(株価/自己資本)÷(株価/自己資本)
であることから、
ROE = PBR ÷ PER
です。
つまり、PBRを増やす(=自己資本を減らす)か、PERを減らせば(=利益を増やすことができれば)ROEを高めることができます。
ROA(使用総資本事業利益率)とは?
ROA(Return on Asset:使用総資本事業利益率)
ROAを算出する数式は以下の通りです。
ROA(%)=(事業利益/総資産)×100
ここで、事業利益とは、営業利益+受取利息および受取配当)のことです。
ROEの意味は、総資産に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示す数値です。
負債を含めた全ての資産を効率的に運用できているか、を表しています。
ROEがリスクを加味した数値であるのに対して、ROAはリスクを考えない指標ということができます。
無借金経営の企業はROA>ROE、リスクをとって収益をあげる企業はROA<ROEとなる傾向があります。
ROAをの定義は以下です。
ROA=(事業利益/総資産)
ROAの式を書き換えると下記のように表される。
ROA=(事業利益/売上高)×(売上高/総資産)
ここで、
- (事業利益/売上高)は売上高事業利益率と呼ばれ、売上高に占める事業利益の比率のこと。
- (売上高/総資産)は総資本回転率と呼ばれ、総資本をどれだけ有効活用したかの指標。
つまり、この2つの指標を高めることができれば、ROAが高まることになります。
サステイナブル成長率とは?
サステイナブル成長率とは、利益の一部を資本にまわしたときの企業の成長率のことです。
サステイナブル成長率を算出する数式は以下の通りです。
サステイナブル成長率(%)=ROE×(1-配当性向)
ここで、(1-配当性向)のことを内部留保率といい、利益のうち配当にまわさなかった割合のことをいいます。
配当性向が低いほど利益が資本に追加されるので、ROEの分だけ毎期の利益額が大きくなります。
その他の財務指標
株式投資において重視されるその他の財務指標について以下に整理します。
- 売上高営業利益率
- 売上高経常利益率
- 売上高当期純利益率
- インスタント・カバレッジ・レイシオ
また、下表に示すある会社の財務諸表において、これらがどのように計算されるのかも記載します。
ある会社の財務諸表
A 売上高 |
1,000,000 | |
売上総利益 | 250,000 | |
B 営業利益 | 100,000 | |
営業外収益 | +)20,000 | |
内訳 | C 受取利息 | 1,000 |
D 受取配当金 | 2,000 | |
その他 | 17,000 | |
営業外費用 | -)25,000 | |
内訳 | E 支払利息 | 18,000 |
その他 | 7,000 | |
F 経常利益 | 95,000 | |
G 当期純利益 | 52,250 |
①売上高営業利益率(%)=B/A×100
この利益率が高ければ、本業の業績が良いことを意味します。逆に低ければ、本業の業績が悪いことになります。
100,000/1,000,000×100=10%
②売上高経常利益率(%)=F/A×100
この利益率が高ければ、本業を含めた会社の業績が良いことを意味します。逆に低ければ、業績が悪いことになります。
95,000/1,000,000×100=9.5%
③売上高当期純利益率(%)=G/A×100
この利益率が高ければ、最終的に得られた利益が高いことを意味します。逆に低ければ、利益が小さいことになります。
52,250/1,000,000×100=5.225%
④インスタント・カバレッジ・レイシオ(倍)=(事業利益/金融費用)=(B+C+D)/E
この数値が高いほど、財務的に余裕があることになります。
会社が通常の活動から生み出すことのできる利益(営業利益と金融収益)が、支払利息に対してどの程度であるかを示す指標です。
(100,000+1,000+2,000)/18,000≒5.72
イールド・スプレッドとは?
イールド・スプレッドとは、長期金利(10年長期国債利回り)から株式益利回りを引いたものです。
長期金利との関係から、株式市場が過熱状態(割高)か閑散な状態(割安)かを測る指標です。
イールド・スプレッドは次のように計算します。
イールド・スプレッド=長期国債(10年債)利回りー株式益利回り
ここで、株式益利回りとは、1株当たり純利益÷株価(=1/PER)で計算されます。
スプレッドが大きい時は、債券投資が有利、
スプレッドが小さい時は、株式投資が有利といえます。
EV/EBITDA倍率(イーブイ・イービットダー)とは?
EV/EBITDA倍率(イーブイ・イービットダー)とは、主に他の企業を買収する際の当該企業の価値度合い(割高か割安か)を示す数値です。
EV/EBITDA倍率=①(株式時価総額+純負債(有利子負債ー現預金))/②(税引前利益+支払利息+減価償却費)
①EV(Enterprise Value):企業価値
②EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization):支払利息、税引き前、減価償却前利益
買収の際にはその企業の負債の返済義務が発生するため、その数値が分子に含まれています。
分母は稼ぐ力と考えてください。
EVを株価、EBITDAを利益と考えればPERと同じ判断で割高・割安度が判定できます。
また、利益から支払利息や減価償却費および税金の影響を取り除いているので、国際的な企業比較ができることが大きな特徴です。
実際に計算してみよう

ここまで学んだ財務指標について、とある会社における貸借対照表及び損益通算書を使って、以下の指標について具体的にどのように算出するのかを整理します。
(1) 1株あたりの当期純利益(EPS)
(2) 1株あたりの自己資本額(期首末平均)
(3) 1株あたりの営業キャッシュフロー
(4) PER/PBR
(5) ROE
(6) ROEの3分解
(7) 配当利回り
(8) 配当性向
(9) 事業利益
(10) 使用総資本事業利益率(ROA)
(11) インタレスト・ガバレッジ・レイシオ(倍)
(12) サステイナブル成長率
(13) 企業価値(EV)
(14) EV/EBITDA倍率
H29年3/31 貸借対照表(百万円)
資産 | 負債 | ||
流動資産 (うち現預金) 固定資産
繰延資産
|
299,657 55,123 984,888
112
|
流動負債 固定負債 (負債のうち 有利子負債) |
435,565 308,023
171,285 |
純資産 | |||
株式資本 その他包括利益 累計額 新株予約権 被支配株主持分 |
517,117
7,474 1,481 14,997 |
||
1,284,657 | 1,284,657 |
H30年3/31 貸借対照表(百万円)
資産 | 負債 | ||
流動資産
(うち現預金) 固定資産
繰延資産 |
296,258 58,855 995,210
91 |
流動負債
固定負債 (負債のうち 有利子負債) |
403,489 310,407
160,601 |
純資産 | |||
株式資本 その他包括利益 累計額 新株予約権 被支配株主持分 |
539,242
21,119 1,599 15,694 |
||
1,291,559 |
1,291,559 |
H29年3/31~H30年3/31 損益計算書(百万円)
売上高 売上原価 売上総利益 販売費及び 一般管理費 (うち減価償却費) 営業利益 |
1,272,130 916,674 355,456
322,373 22,818 33,083 |
営業外収益 受取利息 受取配当金 持分法投資損益 他 営業外費用 支払利息 他 |
1,022 686 2,234 10,105
1,243 11,322 |
経常利益 特別損益 税引前利益 法人税等及び 被支配株主に帰属する 当期純利益 親会社株主に帰属する 当期純利益 |
34,563 ▲6,722 27,841
2,044
29,886 |
その他の情報
- H30年3/31時点の株価:1988円
- 発行済み株式数:3.94憶株
- H30年3月期の配当:11円
- 営業活動によるキャッシュフロー:49,448
計算結果
(1) 1株あたりの当期純利益(EPS)
1株あたりの当期純利益=当期純利益÷発行済み株式数
298.86億円÷3.94憶株=75.85円/株
(2) 1株あたりの自己資本額(期首末平均)
1株あたりの自己資本額(期首末平均)=(自己資本(期首)+自己資本(期末))/2÷発行済み株式数
ここで、自己資本=株式資本+その他の包括利益累計額(新株予約権や被支配株主分を除く)
=((517,117+7,474)+(539,242+21,119))/2×100万円÷3.94憶株
=5424.76億円÷3.94憶株=1376.84円/株
(3) 1株あたりの営業キャッシュフロー
営業活動によるキャッシュフロー÷発行済み株式数
49,448×100万円÷3.94憶株=125.5円/株
(4) PER/PBR
PER=株価÷1株あたりの純利益(EPS)
=1988円/株÷75.85円/株=26.2091
PBR
PER=株価÷1株あたりの自己資本額(期首末平均)
=1988円/株÷1376.84円/株=1.44
(5) ROE
ROE=当期純利益÷自己資本額(期首末平均)
298.86億円÷5424.76億円×100=5.51%
(6) ROEの3分解
ROE=(当期純利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/自己資本)×100
ここで、総資産=(当期総資産+前期総資産)/2=(1,291,559+1,284,657)/2=1,288,108
=29,886/1,272,130)×(1,272,130/1,288,108))×(1,288,108/542,476)×100=5.51%
(7) 配当利回り
配当利回り=配当金÷株価
=11円÷1988円×100=0.55%
(8) 配当性向
=配当金/純利益
=11円×3.94憶株÷298.86億円×100=14.5%
(9) 事業利益
事業利益=営業利益+受取利息及び受取配当+有価証券利息
33,083+1,022+686+2,234=37,023(百万円)
(10) 使用総資本事業利益率(ROA)
事業利益/総資産=37,023/1,288,108×100=2.87%
(11) インタレスト・ガバレッジ・レイシオ(倍)
インスタント・カバレッジ・レイシオ(倍)=(事業利益/金融費用(支払い利息))
=37,023/1,243=29.7859倍
(12) サステイナブル成長率
サステイナブル成長率(%)=ROE×(1-配当性向)
5.51%×(1-14.5%)=4.71(%)
(13) 企業価値(EV)
企業価値(EV)=(株式時価総額+純負債(有利子負債ー現預金))
株価×発行済み株式数+有利子負債ー現預金
1988円×3.94憶株+(160,601ー58,855)百万円
=(783,272+160,601ー58,855)百万円=885,018(百万円)
(14) EV/EBITDA倍率
EV/EBITDA倍率=EV/(税引前利益+支払利息+減価償却費)
885,018/(27,841+1,243+22,818)
=17.05倍
まとめ

今回は、株式投資によく使われる以下の指標について整理いたしました。
- ROE
- ROA
- サステイナブル成長率
- イールド・スプレッド
- EV/EBITDA倍率
- その他財務指標
たくさんの指標を学びましたが、具体的にどのように計算され、どのような意味があるいのかを理解して使うことが大事ではないでしょうか。